大判例

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神戸地方裁判所 昭和22年(レ)17号 判決

控訴代理人は、原判決を取消す、被控訴人は控訴人に対し西宮市今在家町五五番地上木造瓦葺二階建家屋一戸建坪二五坪二合を明渡し、金五〇圓、および昭和二一年八月一日から右家屋明渡まで一月金二五円の割合による金員を支拂え、訴訟費用は第一二審とも被控訴人の負担とする、との判決、ならびに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴人において、本件賃貸借契約解約の申入の正当事由として、控訴人は、その現住する家屋か都市計画事業の施行上除去されることとなつたためこれより立退くことを命ぜられておるにかゝわらず、他に居住すべき家屋かないのに反し、被控訴人は、本件家屋のほかに、長男藤本繁造名義で西宮市田中町に家屋を新築しており何時でも右家屋に移轉し得る状況にあると補述したほか、原判決摘示の事実と同一である。そこで、ここにこれを引用する。<立証省略>

三、理  由

まず、本件家屋の明渡請求の適否について考察する。本訴は、本件家屋の共同賃貸人の一人である控訴人において、賃借人である被控訴人に対し、賃貸借関係に基く請求権、すなわち、既に被控訴人に対する意思表示によりその六ケ月後に法律上の效果を発生したと主張する賃貸借契約の解約に基く本件家屋の返還請求権(債権)を訴訟物とするものであるのみならず、(共有権(所有権)に基く物上請求権が訴訟物でないことは控訴人の主張自体明白である)その債権の目的物である本件家屋は性質上不可分であると解するのか相当である。しからば、控訴人か單独で提起した本訴は、もとより適法である。けだし債権の目的かその性質上不可分である場合において、数人の債権者のあるときは、各債権者において総債権者のために履行を請求し、訴を提起し得るものだからである。

そこで、進んで家屋明渡請求の当否について判断しよう。被控訴人か甘利公夫から控訴人主張の約定で本件家屋を賃借していたことその後、控訴人か土井馨と共同して右家屋を買受け、その所有権を取得したことは、いずれも当事者間に爭かなく成立に爭のない甲第一号証によれば右賣買による所有権移轉登記のなされたのは昭和二十一年二月二三日であることは明白であるから、同日をもつて、控訴人および右土井は被控訴人に対する関係において前記賃貸借契約上の賃貸人の地位を承継したものといわねばならない。從つて、控訴人かその以前ある昭和二〇年一二月二五日に被控訴人に対し賃貸借契約解約の申入れをなしたとしても、解約の申入はその效力を生じ得ないこと勿論である。しかしなから、控訴人か昭和二一年五月九日被控訴人に対し解約の申入をなしたことは当事者間に爭がなく、解約の申入は、正当事由の存する場合においてその後六ケ月の経過により賃貸借契約を將來に向つて消滅させるものであるから、共同賃貸人の一人である控訴人か單独でなした右解約の申入れは適法であると解すべきである。けだし、民法第五四四條第一項の規定は、解除の結果生すべき契約当事者間の法律関係の復雜化を避けることを目的とするものであるから契約関係を遡及的に消滅させる性質を有する解除にのみ適用かあるものであつて、その虞のない解約の申入については、右規定は準用する限りではないと解するのか相当だからであるそこで、右解約の申入につき正当事由の有無の点について判断を進めよう。当裁判所か眞正に成立したと認める甲第三号証、成立に爭のない甲第五、第六号証、証人金重行恭(第一、二回)、安平福造、および藤本繁造(第一ないし第三回)、ならびに控訴人本人尋問の結果(第一、二回)を総合すると、控訴人は馬力五台を使用して運送業を営んでいたところ、昭和二〇年八月六日罹災したので九州に疎開した池田義隆から控訴人が現住している家屋を轉借したが、右家屋は階下か六疊二間に土間約六坪)、二階か物置となつていて当初ここに自分の家族のほか義弟および使用人二家族合計十四名を居住させる必要から右土間を一時座敷に改造したがその後義弟らか他え引越したので現在は土間を事務所に改めて控訴人の家族六人たけの住居にあてていること。控訴人は永年心臟病を患つており、かたわら轉貸人である池田から右家屋の明渡を求められていたので本件家屋を自分の住居とすべくこれを買受けると間もなく被控訴人に対し明渡を求めるとともに、本件家屋の裏手にあるバラツク建の納屋を改造(簡單な設備をしたにすぎない)した家屋(四疊半二間、三疊、二疊)を移轉先として提供したか狹くてきたないことを理由に拒絶されたこと、更に控訴人はその現住する家屋が都市計画事業の施行上西宮市から除去を命ぜられ、これより立退かねばならぬこと、他方本件家屋は階下二疊、四疊半、六疊、二階四疊、三疊であつてこれに被控訴人夫婦その長男藤本繁造夫婦、孫三名の六名家族が居住しており現に右繁造か本件家屋から約一丁離れている西宮市田中町に店舗用住宅一棟建坪九坪五合を新築していることを認めることができる。しかしながら、控訴人の現住家屋か前記病状に適しないかどうかの点についてはこれを認めるに足る証拠かなく、また控訴人が右家屋を池田義隆に対し明渡す義務があるかどうかの点については明白な主張出証かないのみならず、都市計画事業の施行による家屋の移轉および居住者の立退については、これがため通常生ずべき損害については補償を受け得るものであるから、控訴人の病氣や池田から明渡の請求や都市計画事業の施行による家屋の移轉等の事実をもつて直ちに本件賃貸借契約を解約し得べき正当の事由と解し得ない。しかして、証人甘利公夫、安平福造、前記証人藤本(第一ないし第三回の各証言並に控訴人本人尋問の結果(第二回)の一部によれば、控訴人は土井と共同して本件家屋とともに棟続きの一戸、附近にある平家建一棟四戸、およびバラツク建納屋をその敷地とともに買受け、右平家建一棟四戸か都市計画事業施行のため移轉を命ぜられてその補償として金十五万円を受領し、その取毀ち材木を、控訴人か取締役をしている山本土建株式会社に金八万円で賣却し、右会社が昭和二四年六月頃、控訴人名義で右材木を用いて一棟四戸(各建坪一二坪)を建築し、その一戸を三〇萬圓で、もと右平家建家屋に居住していたものに賣却方申込んたこともあり、現にその一戸は、控訴人において使用していること、また前記の通り控訴人に移轉先として提供した納屋改造の家屋は、現住している安平福造において何時でも立退を得る状況にあることか認められる。この事実から考えると控訴人は運送業を営むに若干の不便を忍びさえすれば、比較的容易に他に住居ないし事務所を求める手段や資力を有するものであることは想像に難くなく從つて本件家屋使用の必要性をさまで急迫しているものとは解されない。(控訴人本人尋問の結果(第一、二回とも)中、右認定に反する部分は右証拠に対して信用し難い。)ましてや、元來控訴人らは被控訴人が現住していることを知りながら、本件家屋を買受けていることは控訴人本人尋問の結果(第一、第二回)により明白であるから、控訴人がこれまで局外者であつた自己の有する事由に基いて本件賃貸借契約を解消するには、殊に賃貸人の變動さえなければ害されることのなかつた賃借人の住居の安全か保障されているか否かについて特段の考慮を拂うを要するところ、被控訴人夫婦は二十数年來本件家屋を賃借してこれに居住しいずれも既に七〇以上の老齢に達し、無職の上格別の資産なきものである(このことは証人藤本(第三回)の証言により認められる)からこの期に及んで本件家屋より遙かに狹くかつ家屋といつてもバラツク建の納屋と大した變りもない場所に移轉することは眞平だといつて訴控人の移轉先の提供を拒絶したからとて一概に被控訴人の態度を現下の住宅事情を解しない態度として、これを責めるわけにもいかない。また被控訴人の長男が建築した前記家屋は都市計画事業の施行上除去を命ぜられた同人経営の喫茶店の代りとしてはその営業を継続するため新築したものであつて、その主要部分は店舗として使用されるのみならず、前記認定の通り僅か九坪五合にすぎず、そのうち六疊、四疊半の二室は、繁造夫婦か寝泊りしているとはいえ、將來使用人を寢泊りさせる意向を有し、もとより被控訴人家族六人か居住するには狹隘であつて殊に被控訴人の孫二人は未成年の子女であるからその教育上居住に不適当であることは前掲証人藤本(第一乃至第三回)の証言により明かである。從つて被控訴人は本件家屋なくしては、住居の安全か保障されていない事情にあると解さざるを得ない。以上双方に存する諸般の事情を彼此綜合考慮し、併せて現下の住宅事情に思いを至すとき控訴人の前記解約の申入は本件家屋の全部については勿論、その一部についてもいまだ正当の事由を具備するものとは解されない。從つて、右賃貸借契約解約の申入はもとよりその效力を発するに由なく、その有效であることを前提とする家屋の明渡並に不法占拠による損害金支拂の各請求は、いずれも失当である。

次に昭和二一年一月分及び二月分の延滞家賃金の支拂請求の点について判断する。控訴人及び土井馨か、本件家屋について、被控訴人甘利公夫間の賃貸借契約の賃貸人の地位を承継したのが昭和二一年二月二三日であること前認定の通りであり、成立に爭のない乙第一号証によれば、被控訴人、甘利間の約定に從い、被控訴人が昭和二一年一月及び二月の各初日は甘利に対しそれぞれ一月分および二月分の家賃金二五円を持参提供したところその受領を拒絶されたため、右家賃金を弁済提供していることが認められるから、右家賃金債務はいずれも消滅しており、甘利の地位を承継して賃貸人となつた控訴人および土井においても、もはや請求し得る限りでないこと勿論であるから、この点に関する控訴人の請求も失当である。

よつて、本件控訴は民事訴訟法第三八四條により棄却し、訴訟費用の負担につき同法第八九條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 古川静夫 中島誠二 保津寛)

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